600字のエッセイ
冬の散策
南房総に自分のイナカを決めたのは、四季の散策にふさわしいところと思ったからだ。春、秋は里山、里海の散策。夏は海中散歩?冬は、スキーは無理だが何か山にあるだろう。
その予想は当たった。野辺の道を歩いていると必ず何かの発見がある。日差しを、風を、季節の変化を身体で受け入れることができる。
それなのに今、めったに散歩をしない。
なぜか。イナカでは誰も散歩をしないのだ。人々は散歩などで無聊をなぐさめる必要はないようだ。イナカの生活は誰も結構忙しい。季節の変化に追われての田仕事、畑仕事。なにがしかの現金収入を得る仕事も必要だし、地域の人の付き合いも濃密であるようだ。
誰も散歩をしないので、一人ぶらぶら歩くのは何か様にならない。そればかりか不審な行動と思われかねない。海辺を歩くときは、釣り竿を肩に、畑道を歩くときは大仰な一眼レフカメラと三脚をかついで歩く。目的が明らかならば不審に思われないだろう。でも、それもうそ臭い。面倒だ。
そんなわけでイナカ暮らしを始めた頃は結構散歩したが、今はほとんどしない。わずかばかりの菜園が忙しいし、季節の変化はそこで十分味わうことができる。
冬。誰もこない裏山に入る。落葉樹がすべての葉を落とし、丈高い草も枯れて山は明るくなっている。自由自在に歩きまわれる。別に何をするわけではない。落ち葉を踏み木々の間を歩きまわるだけだが、今この散策にだけ、はまっている。
こんなところでも冬には入っていけます。
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