約束の場所(600字のエッセイ)
戦後、東京・山手線の外周は急激に人口が増加し、わずかに残っていた遊休地が急速に後退した。子供のころ、林で虫を追い、草地に寝転がり、川に入ってエビを捕まえた。
そんな遊び場が忽然と消え、塀で固めた家屋が蝟集した。奪われた私の少年時代。悔しかった。長ずるに及んでも持ち続けていたのは、それを取り戻したいという、漠然としてはいたが強固な思いだった。
自然の喪失を唯一救ってくれたのは、夏休みの臨海学校だった。
両国駅からリュックを背負って汽車に乗る。江戸川を渡るとすぐに豊かな田園地帯が広がり、やがて畑と林が交互に現れる。
汽車は突然トンネルに突入する。油断をしていた生徒たちは侵入する黒煙に咳き込み、目的地に着いた時には顔中煤だらけになった。
千葉県・外房の紺碧の海。少年の背丈には余るほど高く打ち寄せる波。岩場で貝を拾い、潜れば浅瀬でもサザエが採れた。
それから50年もの月日が流れ、引退の時を迎えた。私は失われた少年時代を取り戻そうともがいた。都会には友人知人親族、医者病院、暮らしに馴染んだものがある。すべてを置いて新しい土地に住めない。
見つけたところは外房の海辺ではなかった。
週末通うのにアクセス時間が短くてすむ内房の、それも里山だった。千葉県安房郡鋸南町。東京から100キロもないのに過疎化が始まり、自然だけは豊富にある。
そこが私にとっての〝約束の場所〟だ。
そこで野菜作りを始めた。10年を超えた。だが今はちょっと無理。コロナのせいもあって頻繁には千葉に行けない。
月に2回では葉物、キュウリなどは無理。そこで果樹に変更。これはブルーベリー。苗木から育てはじめて
来年夏の収獲を楽しみにしている。
« 露天風呂をつくる(600字のエッセイ) | トップページ | 賢治のナミダ(600字のエッセイ) »
「600字のエッセイ」カテゴリの記事
- 菜園の終了?(600字のエッセイ)(2020.11.03)
- 評価なし(600字のエッセイ)(2020.11.03)
- セイタカアワダチソウ(600字のエッセイ)(2020.10.16)
- 歩きスマホ防止ポスター つづき(2020.10.09)
- 歩きスマホ(600字のエッセイ)(2020.09.22)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント