トカイナカ 千葉に土地がきまるまで 1
(8月からあたらしいシリーズが始まると予告しながら、もう半月もたってしまいました。申し訳ありません。やはり暑さのせいで。ようやく朝夕涼しくなりましたので約束を履行します。)
さて、2000年のことです。この年私は土地を購入する手続きをすませ、長い間のあてのない彷徨からようやく解放された自分を感じていた。
やっとここまでたどり着いた。
もう迷ったりはしない。
あとは簡素な家を建てればいい。
それまではここの自然とともに過ごし、ここの自然を理解しよう。
場所は千葉県安房郡。
富津館山道鋸南富山ランプから県道を2キロほど走り、それから山道。1車線の林道(正確には町道)を1キロほど登ったどん詰まり。
南向きひな壇地。
260坪。
電気見込み。
上水道見込み。
下水道、側溝なし。
という土地である。
なぜこの土地に決めたのか。
たくさんの土地を見て、なお決められなかったのに。
私たちは土地を見に行くときに戒めていることがあった。
その土地のものを、たとえ草花の一輪でも、取ってはならないということ。自然と生えてきた野の花でも人さまのものである。
それが、この土地を見に来たとき、ひょろひょろと生えていた1本のスイセンが小さなツボミをつけていたのを、妻が目ざとく見つけ、摘んだ。めずらしいことであった。よほどスイセンに惹かれたのであろう。私もとがめなかった。
このささやかな行為が、この土地に決定する決め手になったのかもしれない。
大事なことを大きなことを決めるとき、なにかキッカケになることが欲しい。ポンと背中を押してくれるものが欲しい。花を摘んだというささやかな行動が、私の背中を押したのだ。
土地の移転登記をした直後、不動産屋のほうから、土地の草刈をしてくれるという。働き者の植木職人が一日がかりで、枯れススキや土地をびっしり覆っていたツタを刈ってくれた。土地の容貌が次第に明らかになってきた。
おびただしい数の切り倒した樹木が散乱している。
ここは樹木が生い茂り、長い間放置されていたようだ。土地を売り出すにあたって、樹木は切り倒されたが、長い間売れないでいたにちがいない。
バブルの時代といえども、狭小のアクセスの悪い土地では買い手がつかなかったのであろう。
私は久しぶりにスケッチブックをひろげた。今見るといかにも下手な画だが、土地を購入した気持ちの高ぶりがあらわれている。
遠景に房総半島特有の低い山並み。その森がごく近くにまで迫ってきている。中景に何本かの木が立ち並んでいる。そのすき間がわが土地である。中央に人がいる。植木職人が草を刈っているところだ。
私の最初の仕事は、倒されて放置されたままになっている樹木をかたづけることであった。樹木の多くはスギで直径20センチほど。5メートルほどに切り分けられていたので、大人2人でなんとか移動することができた。運ぶといってもせいぜい敷地のすみに積み上げることくらいであるが。
それに2日を要した。(わたしはできることはなるべく自分たちでやることに決めていた。費用のこともあるが、そうすることで本当に自分たちの土地になっていくような気がしたからである。)
樹木をとりのぞくと青々とした細い茎が現れた。球根がある。タマネギかと思った。まもなくスイセンであることがわかった。それもおびただしい数であった。
スイセンは樹木の覆いをとられるとすぐに成長をはじめ、春には花を咲かせはじめた。
スイセンの球根は樹木や生い茂ったススキやツタ類に繁茂を阻害されながらも生き続けていたのだ。
ここは元スイセン畑。私の買ったのは大量のスイセン球根つきの土地であったのだ。
そして、この土地にはもっとヒミツがかくされていたのだ。それに気づくのは、土地を購入してから数ヶ月あとのことである。
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